そのラベンダーは「本物」ですか? 精油の偽和(ぎわ)について

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あなたがお使いのエッセンシャルオイル、はたして「本物」でしょうか?

信頼できるメーカーの精油を選んでいたとしても、そのラベルに本当のことが書いてあるかどうかは、正直なところ誰にもわかりません。

たとえ日本のメーカーが誠実な会社だったとしても、仕入元である海外の精油会社がウソの成分分析表を添付していたらどうでしょう。 疑いはじめたらキリがありませんね。

そこで、今回は消費者をあざむく「精油の偽和(ぎわ)」についてのお話です。

目次

偽和とは何か

「偽和」とは、精油に安い精油を混ぜたり、成分をあとから追加するなどして、精油を偽造したり改変したりすることをいいます。

このような100%ピュアではない模造品を購入してしまうと、本来のナチュラルな精油の恩恵を十分に受けられないだけでなく、場合によっては健康被害につながってしまうおそれもあります。

では、なぜこのようなことがおこるのでしょうか?

偽和がおこる背景

エッセンシャルオイルというのは、植物から抽出した天然の香り成分(=天然香料)ですから、アロマテラピー用として用いられるだけでなく、その用途は、飲料やガム、お菓子などの食品、化粧品、香水、石けん、シャンプー、歯磨き、スキンケア商品、洗剤、芳香剤などなど、非常に幅広く、ありとあらゆるものに使われています。

そして、昨今の健康志向や自然志向、そして本物の香りを求める消費者ニーズの高まりなどもあって、天然の香りの需要は急速に増加しています。 ところが、世界のラベンダー畑の面積が急に3倍になったりはしませんから、どうしても植物のほうが不足がちに(すなわち供給不足に)なり、原料価格が高騰することになります。

この品不足の問題などに対応するため、供給サイドである農園や原料メーカーなどでは「なんとか出荷量を増やしたい」「なんとか価格を抑えたい」といった欲求が生まれるわけです。

毎年、世界で1500トンほどのラベンダー精油が生産されていますが、偽和された精油がいったい何割含まれているのか、その実態はほとんど分かっていません。専門家の中には、半数以上の精油になんらかの操作が行われているのではないか、と考える人もいます。

偽和の目的

偽和が行われる目的には大きく3つあります。

偽和の目的
  1. 量をかさ増しする :ラベンダー、ペパーミントなどの人気精油
  2. コストを下げる :ラベンダーなどの人気精油のほか、ローズやサンダルウッドなどの希少精油
  3. 品質を改善する :一部の成分を添加して高品質に偽装する、など

代表的な偽和の手口

偽和の手口はさまざまですが、代表的なものとして以下のような方法があります。

偽和の代表的な手口
  1. ホホバオイル、エタノール等で希釈する
  2. 安価な別のオイルを混ぜる
  3. 成分を追加する、または置き換える
  4. 合成香料によって人工的に作り出す

1. ホホバオイル、エタノール等で希釈する

ホホバオイルなどの植物油や、エタノールなどのアルコール類で精油を希釈し、量をかさ増しする方法です。通常はフレグランスオイルなどを作る際に利用されます。オイルの質感や香りが変わるため、最近では偽和の目的で行われるケースは少なくなりました。

ホホバオイルで希釈された精油は、吸い込みの良い紙に1滴落とすと、半透明のシミができ、なかなか揮発もしないため、分かりやすいです。

フレグランス用として高額精油をホホバオイルで希釈するケースはよくあります(ローズ3%、ネロリ3%など)。ラベルなどに100%ピュアでなく3%などと正確に記載していれば、騙す目的ではないので別段問題にはなりません。

2. 安価な別のオイルを混ぜる

香りの似た、別の精油(安い精油)を混ぜて、量をかさ増しする方法です。代表的なものとしてラベンダーにラバンジンを混ぜる方法、ペパーミントにコーンミントを混ぜる方法などがあります。

蒸留をおこなう農園などでも簡単に行うことができてしまうため、非常に一般的な方法です。

ラベンダーにラバンジンが混入されると、カンファー成分が増えるため、香りで気づくケースもあります。ただ、基本的には成分分析をして微量成分や特徴成分をチェックしないと正確な判別ができないため、消費者側で発見することはきわめて難しいです。

偽和の例
  • ラベンダー: ラバンジン、スパイクラベンダーを混ぜる
  • ペパーミント: コーンミント、スペアミントを混ぜる
  • ローズ: ゼラニウム、パルマローザを混ぜる
  • サンダルウッド: シダーウッドを混ぜる

3. 成分を追加する、または置き換える

例えばラベンダーの場合、鎮静作用のある成分として「リナロール(linalool)」や「酢酸リナリル(linalyl acetate)」といった成分が重要視されますが、そういった成分が少ない精油の場合は、後から追加して高品質の精油に偽装したいという欲求が供給側で生じます。

そういった際に、別の天然の精油から抽出した同一成分(天然成分)や、あるいは石油などから抽出した同一成分(合成成分)を、後から追加するという行為が行われる場合があります。これも巧妙に行われた場合には発見が困難です。

4. 合成香料によって作り出す

天然の精油というのは、数十から数百の化学物質が集まって出来上がった有機化合物です。このたくさんの成分の織りなすハーモニーによって、精油の香りが決まるわけです。

とはいえ、ほとんどの精油は数個の成分によって9割方の成分が出来上がっています。そのため、この数個の成分を人工的に作成し、同じ比率で組み合わせれば、天然の精油の香りに似た人工的な香料を作り上げることができます。まるで錬金術のような話ですが、化学が高度に発達した現代では、このようなことも可能になっています。

原料は石油などから抽出するため、安い価格で、安定的な供給ができるのが、合成香料のメリットです。天然由来と全く同一の化学構造をもつ成分を、「ネイチャーアイデンティカル」と呼びます。

偽和の影響

偽和が行われているかもしれないと考えると、消費者はどうしても疑心暗鬼になります。精油の購入を思いとどまってしまう人も多くなるでしょう。アロマテラピー業界全体に対する信頼が損なわれることになります。

もちろん、健康への影響も無視できません。特にトリートメントなどの用途で使用する場合は、混ぜられる成分によっては刺激やアレルギー反応など、なんらかの影響が出る可能性もあります。

偽和の問題を解決することは、消費者の安全とアロマテラピー業界の信頼性の両方にとって重要です。

消費者にできること

偽和された精油の購入を防ぐためには、できるだけ信頼できる会社を選ぶほかありません。
安すぎる精油はできるだけ避け、最低限、100%ピュアの表示や、学名、抽出部位などの表示のある精油を購入するようにしましょう。

以下の「精油の選び方」のページも参考にしてください。

まとめ

「偽和」とは、精油を偽造したり改変したりする行為をいいます。これはエッセンシャルオイル業界全体の信頼性を揺るがす大きな問題です。偽和された精油を使用すると、天然のエッセンシャルオイルの恩恵を受けられないだけでなく、健康を損なう可能性もあります。精油を購入するときは、できるだけ信頼のできる会社を選ぶようにしましょう。

著者プロフィール
元AEAJアロマテラピーインストラクター。エッセンシャルオイルの貿易実務に20年以上たずさわってきました。海外のアロマの文献などもチェックしています。

参考文献:
「アロマテラピーのための84の精油」ワンダ・セラー著 フレグランスジャーナル社
「精油の安全性ガイド(上巻、下巻)」ロバート・ティスランド著 フレグランスジャーナル社
「アロマテラピー事典」パトリシア・デービス著 フレグランスジャーナル社
「エッセンシャルオイル総覧2007」三上杏平著 フレグランスジャーナル社
「アロマテラピー検定テキスト(1級、2級)」鳥居鎮夫監修 社団法人日本アロマ環境協会
「アロマテラピーの事典」林真一郎著 東京堂出版
「キャリアオイル事典」レン・プライス著 東京堂出版
「アロマテラピー図鑑」佐々木薫監修 主婦の友社
「女性によく効くアロマセラピー」鮫島浩二著 主婦の友社
「アロマテラピーの事典」篠原直子著 成美堂出版
「はじめてのアロマテラピー」佐々木薫監修 池田書店
「はじめる、楽しむ アロマテラピー」石原裕子監修 永岡書店
「アロマテラピーバイブル」塩屋紹子監修 成美堂出版

アロマテラピーは、病気の治療を目的とした医療行為ではありません。また、当サイトの情報は、精油の医学的な効能、効果を保証するものでもありません。精油を使用する際には、製品についての注意事項をよく読み、自己責任の下、正しくお使い下さい。妊娠中の方、病気のある方、健康状態のすぐれない方は、必ず事前に医師にご相談下さい。 なお、一般的な呼称に合わせて、エッセンシャルオイル(精油)をアロマオイルと表記する場合もあります。

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